瀬戸内さかなが届くまで

 海から引き揚げられた魚は、どのように私たちのところまで届くのでしょうか。そこには、多くの人のこだわりが隠されています。「魚を新鮮なまま、おいしく食べてもらいたい」。同じ思いを持った職人たちの情熱とともに、魚の行方を追いました。

~ 漁編(定置網漁) ~

定置網とは

 海中の定まった場所に大きな網を仕掛け、回遊する魚群を誘い込んで漁獲します。潮の流れに沿って泳いできた魚が垣網に当たると、避けようとして、登り網・箱網へと迷い込みます。箱網からは出にくい構造になっており、ここに留まった魚を獲ります。

広島ではこんな魚が獲れます

タイ ウマヅラハギ ハマチ ブリ
スズキ ヒラメ チヌ

  1. ①出航
     早朝、網を設置した場所に船で行きます。地形が入り組んだ所や大きな湾のような、魚の通り道になる場所によく仕掛けています。
  2. ②網上げ
     箱網に集まった魚を船に引き揚げて選別し、いけすで泳がせたり氷漬けにしたりして港に持ち帰ります。
  3. ③出荷前の準備
     夜、水槽で活かしていた魚を締めて、計量し、箱に詰めます。
  4. ④市場に搬入
     深夜、トラックなどで魚を市場に運び、卸売業者に搬入します。

その他の漁法の紹介

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漁師に聞く!
「おいしい」がやりがい
魚のファン増やしたい

 「海の命をいただいている」。海と魚への感謝を胸に、漁に出る。一匹も無駄にせず、大切に食べてもらいたい。鹿川漁業協同組合(江田島市)の漁師内藤希誉志さんは、そんな思いで40年以上、続けています。漁へのこだわりや意気込みを聞きました。

瀬戸内さかなの魅力について

 季節ごとの多様な魚を楽しめ、どれも絶品です。定置網漁では、何と出会えるか分からない、宝箱のような楽しみがあります。太田川の恩恵で海自体の栄養価が高く、カキいかだの周辺には魚の餌となる生き物も多い。それらを食べて育った魚は脂の乗りが別格です。

箱網を引き上げる内藤さん(左)

おいしい魚を届けるためのこだわりは?

 魚は、水槽で泳がせてストレスを軽減させます。出荷前に水槽から揚げ、暴れさせないように、素早く締める。暴れると血が回ったり、内出血したりして身が赤くなりおいしくない。急所を狙ってすぐに血を抜きます。魚により急所も違い、スピード勝負。この熟練の技が、魚の甘みや味わい、歯応えも良くする秘けつです。

漁業の課題と今後の意気込みは?

 漁獲量は年々減り、魚種も変わってきています。昔はよく獲れたアジ、カレイなどが少なくなり、ブリなどの回遊魚、アイゴなど未利用魚が増えてきました。環境や乱獲への対策のほか、魚のブランド化や消費量を増やすなど漁業の活性化が急務です。魚のファンを増やすため、インターネットでの直送販売にも力を入れ、販路を広げていきたいです。全ては「おいしい」のために、手間を惜しまず続けていきます。

~ 市場編(広島市中央卸売市場) ~

市場に聞く!
広島の魚市場を
未来へ導くイノベーター

 荷受け2社、仲卸19社、売買参加者が300強という広島市中央卸売市場で瀬戸内さかなのブランド化を牽引する一人、広島市中央卸売市場魚食普及委員会の望月亮委員長(ヒロスイ社長)に聞きました。

広島の魚の流通、市場での役割について

 広島では入荷の約1割がセリ、残りが相対取引です。広島のセリは、値段が順次上がっていく「上げセリ式」で取引されます。うちは仲卸業者にあたり、ほとんどが相対です。昔と違って、今は前日までに産地情報や値段も分かります。それを元に量販店や鮮魚店から注文があるのです。仲卸はお客様からの注文に応じて魚を捌いて出荷します。

市場には地元をはじめ各地から魚が集まります

広島魚食普及委員会とは?

 広島市中央卸売市場の荷受け、仲卸、魚商(魚屋)さんたちと一緒に、市民の方に魚と触れ合ってもらう機会を増やす活動をしています。例えば幼稚園や公民館でのイベントや市場見学などです。先日は、宿泊者向けのオプションで、市場見学ツアーをやりました。委員会は、各委員が取り組みやすいような環境づくりをする役割を担っています。

広島の市場の特徴と魅力は?

 広島の市場は全国4番目という敷地面積で、そこに4部門(魚、青果、肉、花)が全て集結しているのが特徴です。今、建て替えも計画されており、この広さを活かしつつ、安全面の強化、デジタル化も進めることで、情報と物流が活気づいた中四国の中心となる市場を目指しています。市場が完成したら、ぜひ来て頂き、魚の鮮度の違いを感じてほしいです。

~ 料理店編 ~ ※半べえ(広島市南区)の場合

  1. ①店で魚を受け取る
     魚は市場から直送されます。献立に合わせて注文しますが、たまたま良い魚が入荷した時は積極的に受け入れます。市場が休みの日に備えて、店内の水槽で活かしておくこともあります。
  2. ②下処理
     料理人によって持ち場が決まっています。ウロコを取る、捌く、切り身にするなど献立に合わせた分担作業のため、多数の魚が入ってきても、手早く処理をすることができます。
  3. ③調理
     会席料理では原則、同じ魚種を2度出すことはタブーとされています。コース内で魚種が重ならないよう、お造りは彩りも考慮し、白身、青魚、甲殻類のように盛り合わせます。
  4. ④料理を提供
     季節ごと、料理に合わせて器を考えます。ここでもコース内で同じ器は使わず、陶器、磁器、ガラス器と、変化をつけます。季節に合わせて紅葉や銀杏の葉などをあしらいます。

料理人に聞く!
瀬戸内さかなを
次世代へのかけ橋に

 「春の桜鯛、秋の紅葉鯛、夏は養殖も良いね」。季節の微妙な変化も見逃さない繊細な味覚をもつ、広島県日本調理技能士会、川村満会長(半べえ、総料理長)に、瀬戸内さかなについて聞きました。

どんな魚をよく使いますか? その魅力は?

 タイを中心とした白身魚ですね。お造り、焼く、炊くなどどんな料理にでも合います。ただ部位は選びますね。お造りなら背身にしよう、焼き物なら腹身にしようという具合に。特に瀬戸内のタイは、小エビやカニを捕食しているので、身自体に甘味をもっているのが特徴だと思います。こりこりとした食感も特に関東の人には喜ばれますね。

素材の良さを引き出すことに努めています

メニューの考え方、調理上のこだわりは?

 会席料理は、原則1つのコースの中で同じ食材を用いないというルールがあります。旬の魚なら2回までは例外的に認められますが、タイをお造りで出すと、もう焼き物には使いません。お造りも白身ばかりにならないよう、青魚や甲殻類を組み合わせて彩りにも配慮しますね。だから仕入れる瀬戸内さかなも、少量多品目であると言えますね。

瀬戸内さかなのブランド化に向けて

 瀬戸内海は本当に魚の宝庫です。瀬戸内さかなのブランド化には、漁師様と事業者様、我々料理人が三位一体となる仕組みを確立することが必要だと思います。そして料理人同士が情報交換をしたり、若手料理人に技術を教えたりする機会を増やし、全ての料理人が瀬戸内さかなを使いこなせる、そういう状態にしていくことが必要だと思います。

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